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ERP導入プロジェクトの開始前にユーザー企業がやるべきこと

ERPシステムの導入は企業運営に大きな変化をもたらすため、成功を確実にするには事前の準備が重要です。適切なベンダーの選定に加えて、ユーザー企業は以下の点に注目して準備を進める必要があります。

ここでは、ユーザー企業がERP導入プロジェクトを開始する前に着手すべき15の重要な項目を紹介します。これらは、過去のERP導入経験から得られた教訓と、その中で発生した問題とその対処法に基づいています。例えば、十分な準備がない場合、ERPシステムに不慣れなまま要件定義を行うと開発要件が増大しますし、データが統一されていなければ、データ移行の品質が低下します。さらに、意識変革が伴わないと、「業務をシステムに合わせる」という理念が「総論賛成、各論反対」という状況を生み出し、結果的にプロジェクトの品質を低下させる可能性があるということです。これら15項目には相互の関連性があり、指定された順序でこれらを進めることにより、準備過程がスムーズかつ効果的に進むでしょう。ERPシステムやベンダーの選定前にこれらに着手することは、選定プロセスの質を向上させる上で特に有効です。

  1. プロジェクトマネージャーおよびメンバー選定 – ERP導入プロジェクトの成功は、適切なプロジェクトメンバーの選定とそれらのメンバーへのサポートと関与に大きく依存します。プロジェクトメンバーの理想的な属性を定義するためのモデリングを行い、この基準に基づき、スキル、経験、モチベーション、プロジェクトへの適合性を評価するアンケートを実施します。メンバーのモチベーションを高めるためにも、彼らの役割と貢献がプロジェクトの目標達成にどのように寄与するかを明確に伝え、適切な認識と報酬の提案を行います。詳しくは、ERP成功への道:最適チーム構築と協力体制の確立戦略をご覧下さい。
  2. プロジェクトルームの設置 – ERP導入プロジェクトの成功には、適切に設計された物理的なプロジェクトルームの設置が重要です。このルームは、十分なスペースを備えており、ベンダー全員が入れるほか、小規模な打ち合わせができるスペースも複数含まれている必要があります。このような設計は、時間の節約、プロジェクトメンバー間の情報共有の促進、および部門を横断する協力の促進に寄与します。一方で、リモートワークが増加している現代では、仮想的なコラボレーションツールも同様に重要です。チャットルーム、ビデオ会議システム、共有ドキュメントプラットフォームなどを活用することで、場所に縛られない柔軟なコミュニケーションと協力が実現できます。このように物理的および仮想的な環境を整備することで、プロジェクトメンバーが効率的に協力し、相互に刺激を受け合うことが可能になり、プロジェクト成功への道を築きます。詳しくは、プロジェクトルームは思っている以上に重要をご覧下さい。
  3. プロジェクトへの協力体制確立 – ERPプロジェクトメンバーがその能力を最大限に発揮し、プロジェクトの目標達成に貢献できるよう、会社、部門、および上司からの強力なサポート体制を確立します。ここでは、プロジェクトの目的と重要性を伝える明確なコミュニケーション、期待値の共有、定期的なアップデート、フィードバックの受け入れ、そして、役割と責任を明確をにします。相互理解を促進するチームビルディング活動や協力的な関係の構築も、プロジェクトへの協力体制を強化するために重要です。
  4. ERPシステムの基礎知識習得 – ERPシステムの基本構造、機能、および導入プロセスに関する包括的な理解を深め、適切なシステム選択、期待値の設定、将来のビジネス成長に合わせたシステムのスケーラビリティを評価できるようにします。また、ユーザーがシステムを習熟することは、現行の業務プロセスにとらわれない新たな業務要件の定義に繋がり、これが「Fit to Standard」アプローチを採用することでプロジェクトの品質を高める効果をもたらします。このために、ERPプロジェクト開始前に、ユーザー企業はERPシステムの基礎知識の習得に注力し、業務プロセスの標準化と最適化の準備を行う必要があります。
  5. ビジネス要求の定義 – ERP導入プロジェクトにおいては、新たな市場への展開、プロセスの最適化、およびビジネス価値の最大化を目指すため、既存のビジネスプロセスと新しいビジネス要求の詳細な分析が必要です。この分析により、プロジェクトの具体的な目的や目標が明確になり、プロジェクトの効果指標として機能します。ビジネス要求の定義には、現在のビジネスプロセスの限界点や不足事項を特定し、ERPシステム導入によってどのようにこれらの問題を解決し、ビジネス価値を高めるかを明確にします。このプロセスは、ERP導入の目的と効果を具体化し、プロジェクトの方向性と成功の基準を設定するために不可欠です。
  6. あるべきビジネスモデルの設計 – 現在のビジネスモデルを分析し、顧客価値の創出方法、収益モデル、ビジネスプロセスフロー、および経営資源の活用方法を評価します。これに基づいて、将来のビジネス環境に適合したビジネスモデルを設計します。また、現在のビジネスモデルと将来のビジネスモデルの間に存在するギャップを特定し、その差を埋めるための戦略を策定します。
  7. 導入スコープの特定 -導入範囲を明確化し、優先順位を設定するために、ERP導入の対象となる事業領域および業務プロセスを特定します。次に、それらに関係する工場や商品センターなどの拠点を決定し、最後に、それらに関係するシステムを特定します。この時に注意すべきことは、導入スコープ外の事業領域や業務プロセスおよびシステムも明示することです。これにより、スコープ内とそれ以外がはっきりします。また、導入スコープ外の業務プロセスやシステムとの連携有無や方法も示すとやるべきことがさらに明確になるでしょう。
  8. チェンジマネージメント計画の立案 – あるべきビジネスモデルと導入スコープが決まったら、現状から将来の業務へスムーズに適応するために、包括的なチェンジマネージメント計画を策定します。この計画では、プロジェクトメンバーが、新しいシステムをなぜ必要とするのか、変わらない場合に生じるリスク(いわゆる「茹でガエル」)を理解するところから始まります。次に、過去の成功事例や失敗事例を分析することで、変更管理の成功要因と失敗の教訓を得て、進むべき道をイメージするのです。こうして得られた次期システムの心構えを持って、プロジェクトのキックオフを迎えます。これらによる効果は、敵面です。SaaSタイプのERPを迎え入れる気持ちが高まっていますので、早期に操作を習得する様になるでしょう。そうなれば、自ら実機検証を行え、納得感を持ちながら、小さな成功を何度も繰り返すようになります。この過程で、最初の不安は期待に変わり、そして自信につながっていきます。また、プロジェクトは生き物ですから、想定外のことも起きるでしょう。こういったことのためにも、先述した「プロジェクトへの協力体制確立」の通り、周りの理解とフィードバックの収集によって、プロジェクトメンバーは、不安を払拭し、1人ではない安心感を持ってチーム一丸で遂行できるのです。このゴールは、プロジェクトメンバーの一人一人が心配と上手く付き合える様になることです。
  9. 移行計画立案 – 新しいERPシステムへ効率的に移行し、移行後のシステム運用の安定性とプロジェクトメンバーが新システムを効果的に利用できる環境を確保するため、導入スコープの特定の段階で決定された範囲に基づき、新システムへのスムーズな移行を実現するための基本方針と前提条件を策定します。この計画は、運用移行、システム移行、そしてデータ移行について立案しますが、ERP導入プロジェクトの開始前では、運用移行とシステム移行の方針と前提条件を策定します。運用移行の前提条件としては、例えば「業務の繁忙期を避ける」や「他の並走プロジェクトとの調整」などが考慮されます。次に、移行方式を一括移行(ビックバン)、業務や拠点毎の段階移行のどちらにするのか、並行稼働の可否などを決定します。特に段階移行においては、「導入のしやすさ」と「効果の出やすさ」の二軸で定量的に評価することが重要です。この評価をもとに、業務領域や工場などの拠点領域の展開方針を策定し、それに応じたリソース配置計画を立案します。これらの方針と配置は、プロジェクトの成果に大きく影響します。
  10. プロセスの変革と最適化 – ERPシステム導入によって起こり得る業務プロセスや管理方法の変化に対して、ユーザー企業は事前に準備を行う必要があります。具体的には、バッチ処理からリアルタイム処理への移行や、属人化した業務プロセスの特定、ペーパーレス化やBIを前提とした帳票類の見直し、および稼働後のシステムに関するIT部門と業務部門の在り方などが重要です。これらのプロセスの変化を予め把握し、どのように業務が変わる可能性があるかを理解することが、効率的なERP導入に繋がります。属人化した業務を洗い出すことで、それらが標準化され、より透明で効率的なプロセスに変わる機会を見出すことができます。こうした変化の洗い出しは、ERPシステム導入における業務プロセスの再構築と最適化の基盤を形成し、組織全体の運用効率を向上させるための重要なステップとなります。
  11. ビジネスデータ準備と統一 – ERPシステムが効率的に機能するためには、正確で一貫性のあるデータが不可欠です。データ準備と統一を通じて、データの品質を向上させ、システム導入後のデータ管理の効率化と精度を確保します。具体的には、既存のデータを詳細に解析し、ERP導入に必要なデータと不足しているデータおよびクレンジングが必要なデータを区別します。特に、複数のシステムに分散しているマスターデータのコード体系を検討し、これらを統一する方針を立てます。これには、重複データの削除、不完全または不正確なデータの修正、関連データのリンク作成などが含まれます。また、データ統制の計画を策定し、データの整合性と一貫性を確保するための方策を定めます。
  12. 予算とリソースの計画 – ERPプロジェクトの全体的なコストを見積もり、その費用対効果を分析することで、プロジェクトの財務的な健全性を確保します。予算配分は、外部コストと内部コストに分けて行います。外部コストにはERPシステムのライセンス料、システム導入サービス、カスタマイズ、インターフェース開発、外部コンサルタント料金、サポートサービスなどが含まれます。一方、内部コストはプロジェクトチームの人件費(専任または兼任)、社内リソースの使用、内部トレーニングやワークショップの組織などです。不確定要素に備えて、総予算の10-20%を予備予算として確保することが推奨されます。また、プロジェクトチームの構成においては、メンバーを専任化するか、実業務との兼任とするかを慎重に決定し、プロジェクトの成功に必要な人員計画を策定します。
  13. ステークホルダーの関与 – ERPプロジェクトにおける重要なステークホルダー(経営陣、部門長、工場長、倉庫管理者、IT担当者、エンドユーザーなど)の特定を行い、それぞれのステークホルダーがプロジェクトにどのように影響を及ぼすかを理解します。ステークホルダーの関心事、懸念、期待を把握し、彼らの同意と積極的な参加を促すための戦略を策定します。積極的な参加を促すた策には、定期的な情報共有、フィードバックの収集、関係者のニーズに応じたコミュニケーションプランなどがあります。ステークホルダーの関与により、プロジェクト活動を全社大でサポートする体制を確立し、プロジェクトの目標達成を確実なものにします。
  14. 品質管理計画 – ERPプロジェクトを開始する際、初期段階でプロジェクトの成功と最終製品の品質基準を明確に設定します。具体的には、プロジェクトの各フェーズで達成すべき具体的な目標、パフォーマンス指標、ドキュメント定義とその基準、ユーザーの習熟度評価指標策定、および運用後の保守サポートです。さらに、プロジェクトの進行中および完了時に実施される品質監査プロセスを策定し、これらの基準が適切に達成されているかを定期的に評価する準備をします。プロジェクトの最終局面における本稼働判定を逆引きすることで、初期段階から品質を重視し、プロジェクトの目標と最終成果物の品質保証を確実にします。
  15. リスク管理計画の立案 – ERP導入における潜在的な問題点を早期に特定し、それらに効果的に対処するため、プロジェクト開始前の準備段階で特定した各事項をもとに、自社で発生するリスクを特定します。よくあるリスクの例としては、プロジェクトのリソース不足、要件定義の曖昧さ、未予期の要件の増加、業務の標準化の難航、部門間の連携の問題などがあります。各リスクの発生確率とそれがプロジェクトに与える影響度を評価し、リスク軽減のための戦略を策定します。

ERPシステム導入プロジェクトの成功には、ユーザー企業による徹底した事前準備が不可欠です。適切なITベンダーとシステムの選定は、RFPの提出によって始まりますが、それだけでは十分ではありません。ユーザー企業は、プロジェクトマネージャーとメンバーの選定、効果的なプロジェクトルームの設置、協力体制の確立、ERPシステムの基礎知識の習得、ビジネス要求の明確な定義など、多岐にわたる重要なステップにも積極的に取り組む必要があります。これらのステップは、プロジェクトの目的を明確化し、チームのモチベーションを高め、コミュニケーションと協力を促進し、最終的な品質と成果を保証するために重要です。こうした総合的な取り組みにより、ERP導入は単なるシステムの導入を超え、組織全体の業務プロセスの改善と革新へとつながり、ビジネス全体の変革の礎となります。

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