ERP知識シリーズ マスメン 第六部:新しい仕入先との取引関係をどうマスターに反映するのか
ある製造業で、主力原材料Aの第二購買先として仕入先Xを採用することになりました。
品質評価を終え、購買部門でも価格や納入条件について合意しています。来月から関東工場で原材料Aの購入を始めることになり、ERPへの登録準備に入りました。
最初に必要になるのは、仕入先Xの法人名、本店所在地、支払先などの基本情報です。ここまでは一つの仕入先を新しく登録する話として進みます。
ところが、購買条件を整理し始めると話が広がります。関東工場では原材料Aを仕入先Xから購入します。さらに数か月後には、関西工場でも同じ原材料Aを購入する計画があります。
納品リードタイムを確認すると、関東工場は2日、関西工場は3日でした。仕入先Xの在庫拠点は関東にあり、関東工場向けには近距離で配送します。関西工場向けは幹線輸送を経由するため、同じ原材料Aでも納品までの日数が変わります。
ここで、仕入先Xという一つの会社を登録することから、仕入先Xとの具体的な取引関係を登録する話へ進んでいきます。
仕入先の登録から、取引関係の登録へ
仕入先Xの法人名や本店所在地など、取引先そのものに属する基本情報は共通です。一方、納品リードタイムは納入先となる工場との関係で決まり、購買価格や最低発注量、発注単位には、購入する品目との関係も加わります。
さらに品質部門から、原材料Aは仕入先Xからの初回3ロットについて受入検査を強化するという条件が提示されました。この条件には、仕入先X、原材料A、受入拠点という関係が含まれます。
経理部門では、仕入先Xとの支払条件や振込先を確認します。ここでは、取引する法人や支払先との関係を基に必要な情報を設定します。
このように一つの取引開始をたどると、会社として共通する情報、拠点との関係で決まる情報、品目との関係で決まる情報、品質や会計に関する情報を整理できます。
マスメンのシナリオでは、それぞれの情報が「何と何の関係によって決まるのか」を整理します。これにより、同じ仕入先Xに関する情報でも、どの範囲へ適用する値なのかを区別できます。
判断が確定する順番もシナリオに入れる
仕入先Xの採用が決まった時点では、取引開始に必要な情報の一部が確定しています。その後、対象品目と対象工場が決まり、価格、発注単位、最低発注量、リードタイムなどの条件を確定します。品質部門は評価結果を基に受入検査の条件を決め、経理部門は支払条件や振込先を確認します。
これらの判断には前後関係があります。
例えば、原材料Aを仕入先Xから購入することが決まることで、仕入先Xと原材料Aの購買条件を登録できます。関西工場での購入開始が決まることで、関西工場に適用するリードタイムや納入条件を追加できます。品質部門の評価が完了すると、仕入先Xから納入される原材料Aに適用する検査条件を確定できます。
マスター登録の順番を業務上の決定と結び付けることで、どの判断を待っているのか、次にどのマスターを登録できるのかが明確になります。
「第四部:マスメンのシナリオはどう描くのか」で扱った「情報確認、判断・決定、マスターへの反映」という流れを、今回は一つの仕入先と複数の取引関係へ広げています。
変更するときも、同じ関係をたどる
数か月後、関西工場向けの納品頻度が週3回から週5回へ変更されたとします。
この変更は、関西工場向けの納入条件へ反映します。仕入先Xの法人名や本店所在地、関東工場向けの条件、原材料Aそのものの基本情報は継続して使用します。
また、原材料Aの購買価格が変更された場合には、その価格が適用される仕入先、品目、工場、有効日を確認して更新します。
このように適用範囲を整理しておくと、Createのときに登録する単位と、Updateのときに変更する単位がつながります。「第五部:マスター変更の切替点をどう決めるのか」で扱った切替点も、どの関係に新しい条件を適用するのかを基に具体化できます。
ERP標準のマスター構造に当てはめて確認する
ここまで整理した「仕入先・品目・拠点・条件」の関係を、ERP標準のデータモデルへ当てはめていきます。どの情報をどの単位で保持するかはERP製品によって異なるため、仕入先の基本情報、拠点ごとの設定、品目別の購買条件など、標準で用意された構造と照らし合わせて確認します。
このとき起点にするのは、現行システムのマスターや項目ではなく、As-Isの取引関係です。誰が、何を、どの拠点で、どの条件で取引しているのかを整理すると、その取引を成立させている制約条件を業務から導き出せます。
その制約条件を基にTo-Beの取引関係を考え、ERP標準へ当てはめることで、現行システムのマスターや項目を細かく調査しなくても、To-Be業務に必要な情報を洗い出すことができます。
以前のビジネスデータモデルの記事では、取引パターンからTo-Beのデータモデルを構築する考え方を紹介しました。今回のマスメンでは、そのデータモデルを業務上のトリガーイベントから実際に登録・変更できることまで確認します。
一つの取引開始からマスメン全体をたどる
今回のシナリオは、「仕入先Xを第二購買先として採用した」というトリガーイベントから始まりました。
そこから、仕入先Xの基本情報、関東工場で原材料Aを購入するための購買条件、品質部門が決めた検査条件、経理部門が確認した支払条件を、それぞれの適用範囲に合わせてERPへ反映します。関西工場で取引を開始するときには、関西工場に適用する条件を追加します。
この一連の流れをシナリオとして整理すると、誰が何を決め、その情報がどの範囲に適用され、どのマスターをCreateまたはUpdateするのかを確認できます。
新しい仕入先とのマスメンでは、仕入先Xとの取引に必要な関係を一つずつ成立させ、それぞれの判断結果をERP標準のマスター構造へ正しく反映することが重要です。
ここまで整理すると、次に確認したいのは、それぞれの情報をどこで確定し、どのシステムを正として管理するのかという点です。
第七部では、マスターメンテナンスから考えるSoTをテーマに、ERP、PLM、CRM、MDMなどの間で、情報の正をどこに置くのかを考えていきます。