ERP知識シリーズ マスメン 第五部:マスター変更の切替点をどう決めるのか

ある製品で設計変更があり、これまで使用していた原材料Aを、新しい原材料Bへ変更することになりました。

品質評価を終え、関係部門で協議した結果、「12月1日から原材料Bを使用する」と決まりました。ERPでは、BOMの原材料AをBへ変更し、12月1日を有効日として設定することになります。

ここで一つ確認しておきたいことがあります。11月20日に、12月10日生産分の製造指図がすでに発行されていました。その製造指図には、原材料Aが設定されています。12月1日からBを使用すると決めたとき、この製造指図はAを使用するのでしょうか。それともBへ変更するのでしょうか。

マスター変更のシナリオを考えるとき、このような「切替の境界」を具体的にしておく必要があります。

「12月1日」が何を意味するのか

さらに確認すると、原材料Aの在庫も残っていました。現在の生産計画を前提とすると、12月初旬まで使用できる数量です。加えて、Aはすでに発注済みで、11月末にも納入される予定になっています。

ここまで確認すると、「12月1日からBへ変更する」という決定について、もう少し具体的な条件が必要になります。

12月1日以降に開始する製造からBを使用するのか。12月1日以降に作成する製造指図からBを使用するのか。特定の製造ロットから切り替えるのか。Aの在庫を使い切った時点でBへ切り替えるのか。同じ12月1日でも、業務上の意味によって対象となる在庫、発注、生産計画、製造指図が変わります。

したがって、マスメンのシナリオでは、有効日と合わせて、その日付がどの業務の切替を表しているのかを決めます。

すでに作成されたトランザクションを確認する

ここで重要になるのが、マスター変更前に作成されたトランザクションです。

先ほどの12月10日生産分の製造指図は、11月20日に作成されています。製造指図を作成した時点でBOMの情報を取り込み、その内容を保持するERPであれば、12月1日にBOMを変更しても、その製造指図にはAが残る可能性があります。

一方、後続処理の段階でマスターを再参照する仕組みであれば、結果が変わることもあります。

同じことは、生産計画や購買依頼、発注などでも起こり得ます。

ここはERP製品の仕様や設定、トランザクションの進捗によって扱いが変わるため、プロジェクトでは実際の処理を確認します。

大切なのは、「BOMを12月1日付で変更した」という事実だけで判断しないことです。

変更前に作成されたトランザクションが、変更後にどの情報を使用するのか。ここまで確認することで、業務側が考えている切替とERP上の処理を一致させることができます。

原材料Aをどう扱うかも決める

原材料Bへの切替を決めると、同時に原材料Aの扱いも決める必要があります。

例えば、Aを12月1日までに使い切るのであれば、現在庫と今後の消費予定を確認します。11月末に納入予定の発注が残っていれば、その数量を受け入れるのか、発注数量を変更するのかについても判断が必要です。

品質上の理由で12月1日以降にAを使用できない場合には、残った在庫について返品、廃棄、他用途への転用などを検討します。

さらに、Aを使用する前提で作成済みの製造指図があれば、そのまま生産するのか、Bへ変更するのかを決めます。

このように、マスターの変更は、新しい情報を登録する処理と、変更前の条件で作成された在庫やトランザクションの処理がつながっています。

その両方を一つのシナリオに含めることで、実際の切替を確認できます。

CRPでは切替の境界を再現する

このシナリオをCRPで確認する場合、切替前後のトランザクションを用意します。

例えば、11月中に作成した12月生産分の製造指図を残したまま、12月1日を有効日としてBOMをAからBへ変更します。その後、変更前に作成した製造指図がどの原材料を使用するのかを確認します。さらに、12月1日以降に新しく製造指図を作成し、原材料Bが適用されることも確認します。

必要に応じて、発注残や在庫についても同じ切替条件で確認します。

ここで確認したいのは、単に「マスターを変更できたか」という結果だけではありません。業務側で決めた切替条件が、ERPの処理結果として再現されているかを確認します。

もし想定と異なる結果になれば、マスターの有効日、トランザクションの作成タイミング、再展開や再計算の方法、運用手順などを整理します。

この確認によって、本番稼働後にどのタイミングで何を実施するのかまで具体化できます。

マスター変更では、切替条件まで決める

原材料AをBへ変更するという判断は、一つの変更に見えます。

実際には、その時点で在庫、発注残、生産計画、製造指図などが存在しています。そして、それぞれが変更前の情報をどのように保持しているのかによって、必要な対応が変わります。

そのため、マスメンの変更シナリオでは、変更内容と有効日を決めた上で、どの業務を境に新しい条件を適用するのかまで具体化します。

さらに、変更前に作成されたトランザクションを確認し、切替前後の処理をCRPで検証します。

「12月1日から変更する」と決めたとき、本当に確認したいのは日付そのものではありません。

12月1日を境に、どの業務がどのように変わるのか。

そこまでシナリオに描くことで、マスターの有効日が実際の業務とつながります。

次回は、製品や原材料から対象を広げます。

第六部では、新しい取引先との取引開始や取引条件の変更を題材に、顧客・仕入先、価格、納期、請求・支払条件など、複数の情報が関係するマスメンのシナリオを考えていきます。