ERP知識シリーズ マスメン 第三部:マスメンをCRPでどう検証するか
第二部では、仕入先から原材料Aの生産終了通知を受け、影響を調査し、代替材料Bを評価した結果、「12月1日からBへ切り替える」と決定するところまでを追いました。
その過程で、原材料Bの採用というトリガーイベントから、品目、BOM、購買条件など、影響するマスターをたどりました。
では、この業務をCRPで検証するとしたら、どのようなシナリオを作ればよいのでしょうか。
ここからが今回のテーマです。
「BOMを変更する」ではシナリオにならない
例えば、次のようなシナリオを作ったとします。
「原材料Bを品目登録する」
「製品XのBOMを原材料AからBへ変更する」
これでERPへの登録方法は確認できます。
しかし、実際の業務では、いきなりBOM変更から始まったわけではありません。
原材料Bを採用することが決まり、12月1日から切り替えることが決まった。その結果として、どのマスターに影響するのかを確認し、必要な登録や変更を行います。
そこで、CRPのシナリオは例えば次のようにします。
「原材料Aの生産終了に伴う評価の結果、原材料Bを代替材料として採用することが決定した。12月1日の生産分から原材料Bへ切り替える。」
参加者へ渡すのは、この業務上の状況です。
ここに「品目を登録してください」「BOMを変更してください」と書いてしまえば、参加者はその通りに操作できます。しかし、それでは影響するマスターを自分たちで判断できるのかまでは確認できません。
CRPでは、操作の答えを先に与えるよりも、実際の業務で起きる状況を再現し、その状況から必要な判断と処理へたどり着けるかを見ることが重要です。
どこからシナリオを始めるか
第二部のストーリーは、仕入先から原材料Aの生産終了通知を受けるところから始まりました。
CRPも必ずそこから始める必要があるわけではありません。何を確認したいのかによって、開始位置を決めます。
例えば、原材料の生産終了を受けて、影響調査、代替材料の評価、採用までの業務も確認したいのであれば、生産終了通知から始めます。
今回の中心がマスメンであれば、代替材料の評価はすでに終わっている前提として、「原材料Bを採用し、12月1日から切り替えることが決定した」ところから始めることができます。
逆に、最初から「BOMを変更してください」と始めれば、必要な判断や情報がすでに揃った状態になり、操作確認に近づきます。
どこから始めるかによって、CRPで見えるものが変わります。今回確認したいことが最もよく見えるトリガーイベントを、シナリオの開始条件に置く。第二部でトリガーイベントの連鎖を整理したことが、ここで生きてきます。
答えを書かずに、状況を与える
CRPを始めます。参加者には、「原材料Bの採用が決まりました。12月1日から切り替えます。」という状況が与えられています。
まず、原材料BをERPで管理するために何が必要なのかを確認するでしょう。品目登録が必要だと判断し、どの仕入先から、どの条件で購入するのかを確認する。原材料Aを使用しているBOMを調べ、必要な変更を行う。さらに、12月1日から変更内容を有効にします。
実際に業務を流してみると、ここでいろいろなことが見えてきます。BOMを変更しようとしたところ、原材料Bの品目登録が終わっていなかった。品目は登録できたものの、購買に必要な情報が揃っていなかった。切替日は12月1日と決まっているが、ERPのどこでその日付を管理するのか分からなかった。
こうした場面が出てきたとき、単に操作方法を説明して先へ進めるだけでは、CRPで見つけた問題を十分に生かせません。
なぜそこで止まったのかを確認します。
必要な情報が不足していたのか。業務の順番に問題があったのか。担当する役割が曖昧だったのか。それともERPの設定や使い方を見直す必要があるのか。CRPで実際に流してみる価値は、業務フローや役割分担表だけでは見えなかった事実を具体的に確認できるところにあります。
マスター登録でCRPを終わらせない
原材料Bの品目登録が終わりました。BOMも変更できました。購買に必要な情報も登録されています。ここでCRPを終了すれば、確認できたのはマスターを登録・変更できたことまでです。今回の業務で実現したいのは、12月1日から原材料Bを使って生産することです。
そこで、変更したマスターを使って後続業務まで確認します。例えば、12月1日以降を対象に生産計画や所要量を確認したとき、意図した原材料Bが使われるかを見る。
ここまで確認することで、品目やBOMに正しい値が入っていることに加えて、そのマスターを使った業務が想定した結果になることまで確認できます。
マスターは、登録した内容を眺めるために存在するものではありません。受注、購買、生産、在庫、原価など、その後の業務で使われます。だからこそ、マスメンのCRPも、変更したマスターが実際の業務で使われるところまでつなげます。
開始条件と完了条件を決める
今回のシナリオをもう一度振り返ってみます。開始条件は、「原材料Bの採用が決定し、12月1日から切り替える」です。そこから必要な情報を確認し、影響するマスターを特定し、登録・変更し、有効日を設定します。そして完了条件は、「変更したマスターを使い、12月1日以降の業務を想定通り行える」ところです。
この二つを決めておくと、CRPで何を確認するのかが明確になります。
マスターを登録したところで終わるのか。そのマスターを使ったトランザクションまで見るのか。開始条件と完了条件によって、同じ題材でもシナリオの意味は大きく変わります。
マスメンのCRPシナリオを作る五つの要素
今回の事例には、マスメンのCRPシナリオを作るための要素がすべて入っています。
始まりには、原材料Bの採用決定というトリガーイベントがあります。そこから、何を確認し、何を決めるのかという判断が続きます。その判断結果を、品目やBOM、購買条件などのマスターへ反映します。さらに、12月1日という有効日を設定します。最後に、変更したマスターを使って後続業務を確認します。
つまり、トリガーイベント → 判断 → マスターへの反映 → 有効日 → 後続業務という流れです。
第二部でトリガーイベントからマスターへの影響をたどり、第三部ではその流れを実際の人とERPを使って確認しました。
良いマスメンのCRPシナリオは、「品目マスターを登録する」「BOMを変更する」という処理から始まりません。何が起きたのかがあり、それを受けて必要な判断を行い、影響するマスターへ反映し、決めた日から業務へ適用する。そして最後に、その変更によって意図した業務ができることを確認します。ここまでつながって、マスメンのシナリオが一つ完了します。
次回は、この考え方を別の業務イベントへ広げます。
新製品の発売が決まったとき、会社では何を新しく管理し、どの情報をいつまでに整える必要があるのでしょうか。品目、BOM、購買条件、原価、販売条件などへの影響を、トリガーイベントから順にたどっていきます。第四部では、「新製品が生まれたとき、何が変わるのか」をテーマに、マスメンを考えていきます。