ERP知識シリーズ マスメン 第二部:マスメンは何をきっかけに始まるのか

ある日、購買部門に仕入先から連絡が入りました。

「原材料Aは、11月末で生産を終了します。」

この連絡を受けた担当者は、まず原材料Aがどこで使われているのかを確認します。どの製品に使用しているのか。在庫はいくつあるのか。発注残はどの程度あるのか。代替できる材料はあるのか。

候補となる原材料Bが見つかれば、品質や製造への影響を確認し、代替材料として採用できるかを検討します。

そして評価の結果、「12月1日から原材料Bへ切り替える」ことが決まりました。ここから、ERPのマスターメンテナンスが必要になります。

この一連の流れを見ると、マスメンを考える上で重要なことが見えてきます。

生産終了の連絡だけでBOMを変更するわけではない

最初のきっかけは、仕入先から届いた「原材料Aを生産終了する」という連絡です。これは、原材料Aの影響を調査し、今後の対応を検討する業務を始めるトリガーイベントになります。この時点では、まだBOMを変更する内容は決まっていません。

調査と評価を行い、原材料Bを代替材料として採用することが決まります。この「原材料Bを採用する」という社内の決定によって、今度はマスターを変更する必要が生じます。つまり、一連の業務の中には複数のトリガーイベントがあります。

仕入先からの生産終了通知は、対応を検討するトリガー。
代替材料の採用決定は、マスター変更を始めるトリガー。

トリガーイベントを一つだけ探して終わると、この違いを見落とします。何かが起き、それを受けて判断し、その判断結果が次の業務を始める。業務はこのようなイベントの連鎖で進んでいきます。マスターメンテナンスも、こうした前後のトリガーイベントとのつながりで捉える必要があります。

トリガーイベントから影響するマスターをたどる

原材料Bの採用が決まったところから、影響するマスターを確認してみます。原材料BをERPで新たに管理するのであれば、品目登録が必要です。新しい仕入先から購入するのであれば、仕入先や購買に必要な情報も確認します。

原材料Aを使用している製品では、BOMの変更が必要になります。原材料Aについても、いつまで使用するのかを決め、その内容をERPへ反映します。

一つの「代替材料を採用する」という決定から、品目、BOM、仕入先、購買条件など複数のマスターへ影響が広がります。

ここで大切なのは、最初から「どのマスターを変更するか」と考えないことです。

まずトリガーイベントを捉え、その出来事によって何が変わるのかを確認する。その結果として、影響するマスターが見えてきます。マスター単位でメンテナンスを洗い出すと、そのマスターの中で完結して考えやすくなります。トリガーイベントを起点にすると、マスターをまたいだ影響まで追うことができます。

CRUDで抜けを確認する

影響するマスターが見えてきたら、Create、Read、Update、DeleteというCRUDを使って整理します。

今回の例では、最初に原材料Aの使用状況をReadします。原材料Bを新たな品目として管理するのであればCreateします。原材料AをBへ切り替えるためにBOMをUpdateします。購買条件が変われば、その情報もUpdateします。原材料Aを今後使用しないのであれば、利用停止や有効期限の設定が必要になります。ERPでは、過去の購買、生産、在庫、会計などのデータからマスターが参照されるので、Deleteをそのまま物理削除と考えるより、利用停止や有効期限終了を含めて「今後どのように使わせないか」を確認する方が実務に合っています。

トリガーイベントを起点に影響範囲を確認し、必要な処理に抜けがないかをCRUDで確認する。この順番で使うと、CRUDがマスメンを整理する物差しになります。

変更を決めた日と、有効になる日は分けて考える

今回の例では、仕入先から生産終了の連絡を受け、その後に代替材料を評価し、原材料Bへの変更を決定しました。さらに「12月1日から切り替える」と決めています。

ここには、少なくとも異なる時間があります。
生産終了の連絡を受けた日。
原材料Bの採用を決めた日。
ERPへ必要な情報を登録する日。
原材料Bへ実際に切り替える日。
それぞれの日付が、通知、決定、登録、適用という異なる段階を表しています。

マスメンでは、「何を変えるか」と合わせて、「いつからその内容を有効にするか」を確認する必要があります。特にBOMや価格のように時間によって業務結果が変わるマスターでは、この視点が重要になります。

トリガーイベントをどこから探すか

これまでの投稿「To-Beプロセス構築を成功に導く!トリガーイベントで見極める“必須”のAs-Is業務」では、トリガーイベントを外部イベント、内部イベント、定期イベントの三つの視点で整理してきました。

今回の「仕入先から原材料の生産終了通知を受ける」は外部イベントです。「代替材料Bを採用する」という社内決定は内部イベントです。一定の周期でマスターの利用状況や価格を確認するのであれば、定期イベントになります。この三つから考えることで、マスメンにつながる業務の始点を探しやすくなります。

さらに、Man、Machine、Material、Methodの四つの視点も使えます。これまでの投稿では「3M+Method」として、業務を規定する条件を確認するために使ってきました。

組織や役割が変わった。設備や生産ラインが変わった。原材料や商品が変わった。生産方法や調達方法が変わった。

こうした条件に変更があれば、現在のマスターに登録している内容にも影響する可能性があります。

3M+Methodは、現在の業務を成立させている条件を確認するための視点です。組織や設備、原材料、方法などに変更があれば、関連するマスターへの影響を確認します。そこから、マスメンにつながるトリガーイベントを見つける手掛かりになります。

マスメンの始点は、マスターの外にある

原材料Aの生産終了から始めて考えると、最初に見えていたのは仕入先から届いた一つの連絡でした。そこから調査と判断が行われ、代替材料の採用が決まり、品目やBOM、購買条件などのマスター変更につながりました。

この流れから分かるのは、マスメンは、マスターの区切りでシナリオを作るのではないということです。業務上のイベントを捉える。そのイベントによって何が変わるのかを確認する。影響するマスターをたどる。CRUDで必要な処理を確認する。いつから有効にするのかを決める。

この順番で考えることで、マスターメンテナンスの範囲が見えてきます。

では、ここまで整理したトリガーイベントを、ERP導入ではどのように検証すればよいのでしょうか。次回は、今回取り上げた原材料の変更を例に、トリガーイベントからCRPのシナリオをどのように作り、マスメンの何を検証するのかを具体的に考えていきます。