ERP知識シリーズ 全体リードタイムから考えるペーパーリードタイム 第三部:ペーパーリードタイムを最適化する

第一部では、発注判断に使う時間の価値を、納品リードタイムや納品頻度との関係から考えました。

第二部では、納品頻度と発注頻度を分け、将来の日別数量を早い段階で確定することが発注変更を生む構造を取り上げました。将来の必要量は内示として共有し、確定発注は仕入先が確定情報を必要とする時点まで待つ。これにより、より新しい情報を発注数量へ反映できます。

シリーズの最後に考えるのは、人の判断時間を、どの品目の発注に充てるかです。

第三部では、需給差を次回まで吸収できるか、人が有効な情報を加えられるか、という二つの条件から、発注前の時間の置き方を決めます。

長納期品で高まるのは誤差の影響

ここまでの議論を品目へ当てはめると、短納期品は自動発注、長納期品は人が確認する、という分類が浮かびます。

実務では、もう一段の確認が必要です。

長納期品で高まるのは、一回の発注誤差が残る期間と、その影響です。人の判断価値は、ERPに反映されていない有効な情報を加え、発注結果を改善できるときに生まれます。

そこで、ペーパーリードタイムを設計するときには、二つの問いを使います。

一つ目は、発注数量に差が生じても、安全在庫と次回の発注・納品によって吸収できるか。

二つ目は、人がERPに反映されていない情報を加えることで、発注結果を改善できるか。

この二つによって、ERPと人の役割が決まります。

一日分の需給差を次の発注で調整する

納品リードタイムが短く、納品頻度と発注頻度が多い品目では、最新の所要量、現在庫、発注残を発注数量へ反映する機会が多くなります。

例えば、ERPが今日100個を発注し、実際の需給から見れば90個が適切だったとします。多かった10個は在庫として残り、翌日のERP計算では、その10個を含む現在庫を使って次の発注数量が算出されます。

反対に10個少なかった場合も、その差が安全在庫の吸収範囲に収まり、次回納品まで供給をつなげられれば、安全在庫が欠品などの業務影響を防ぎます。翌日の再計算によって、将来の発注数量が調整されます。

ここで安全在庫は、一日分の需給差を次の計算と納品までつなぐ役割を果たします。

この条件が整った品目では、一回の発注数量を人が時間をかけて精緻にするより、ERPが毎日再計算する方が情報の鮮度を生かせます。ペーパーリードタイムを0にし、自動発注へつなげる価値が高い領域です。

通常は自動、吸収範囲を超えたらアラート

短いサイクルで調整できる品目でも、急な所要量の増加や発注残の遅延、仕入先の供給制約によって、安全在庫と次回発注だけでは吸収しきれない状況が生じます。

この領域では、通常範囲の計算結果を自動発注へ進め、需給差が許容範囲を超える見込みをERPが検知した時点でアラートを出します。

アラートの条件には、次回納品までに安全在庫を下回る見込み、発注残の納入遅延、仕入先の納入可能数量の不足など、通常の発注サイクルで吸収しきれない状態を設定します。

通常範囲では自動発注を継続し、アラート条件に該当した発注だけを担当者の判断へ切り替えます。担当者は原因と影響を確認し、仕入先への確認、追加発注、代替調達などを即座に判断します。

人が毎回例外を探す運用から、ERPが異常を検知して人へ知らせる運用へ変わります。通常時のペーパーリードタイムを0に保ちながら、人の判断が必要になった時点で時間を使える仕組みです。

人が介在する価値は、追加できる情報で決まる

納品リードタイムが長く、次の発注や納品による調整にも時間がかかる品目では、発注数量に差が生じたとき、その影響を次の発注や納品で吸収するまでに時間を要します。そこで確認するのは、ERPの計算後に得られた情報を人が加えることで、発注結果を改善できるかどうかです。

仕入先から得た最新の供給制約、発注残の入荷確度、輸送遅延などがERPへ反映されていなければ、その情報を加えて確定数量や納期を判断する時間には価値があります。

ERPと同じ情報をExcelで再計算する一日は、ペーパーリードタイムを延ばします。判断精度を高める一日は、ERPにない有効な情報を加える一日です。

長納期品であっても、人が追加できる情報が乏しい場合には、マスターデータ、発注ロジック、仕入先からの情報連携、アラート条件を整える方が、発注結果の改善につながります。

二つの問いから発注プロセスを分ける

ここまでの考え方を整理すると、品目ごとの発注プロセスは次のように分けられます。

次回の発注・納品まで需給差を吸収できるか人が有効な情報を追加できるか発注プロセス
吸収できる通常は必要ない自動発注
通常は吸収できる異常時に必要になる自動発注+アラート
吸収が難しい追加できる発注前に人が判断
吸収が難しい追加できる情報が乏しいデータ・ロジック・情報連携を改善

特に四つ目は見落とされやすい領域です。影響が大きい品目ほど、人の確認工程を追加しがちです。人が追加できる情報が乏しい場合、マスターデータや発注ロジック、仕入先情報の連携を整えることが判断品質を高めます。

この分類では、納品リードタイムの長短だけで人の介在を決めません。

需給差を次回まで吸収できるか。そして、人が時間を使うことで結果を改善できるか。この二つを確認することで、ペーパーリードタイムを残す価値が明確になります。

人の一日を、結果を変えられる発注へ使う

第一部では、ERPが算出した発注提案を人が一日かけて確認する価値を問いかけました。第三部までの考え方を通すと、その一日の使い方が見えてきます。

一日分の需給差を安全在庫と次回発注で吸収できる品目は、ERPへ任せる。

通常のサイクルを超える異常は、アラートによって人へ知らせる。

需給差を吸収しにくく、人が有効な情報を加えられる品目には、発注前の判断時間を確保する。

ERPが通常を処理し、アラートが異常を知らせ、人は発注結果を改善できる場面に時間を使う。この役割分担を品目ごとに設計することが、ペーパーリードタイムの最適化です。