ERP知識シリーズ 全体リードタイムから考えるペーパーリードタイム 第ニ部:納品頻度と発注頻度による補正の可能性

第一部では、人が発注判断に使う時間の価値を、ペーパーリードタイム、納品リードタイム、納品頻度の関係から考えました。そして、最後に示したのが、「発注数量に差が生じたとき、その差を次にいつ補正できるのか」という問いです。この問いを考えるには、もう一つの時間軸が必要です。

それが発注頻度です。

納品頻度が高くても、発注数量を確定する頻度が低ければ、最新の所要量や在庫状況を発注へ反映する機会は限られます。

今回は、実際のERP導入プロジェクトで経験した事例から、納品頻度と発注頻度の違い、そして「いつ発注数量を確定するのか」について考えます。

毎日納品されるのに、発注変更が繰り返される

ある製造業では、翌々週の1週間分をまとめて仕入先へ発注していました。発注に使用していたのは、横軸に日付、縦軸に品目を並べ、それぞれの交点に日別発注数量を記載したマトリックス表です。

例えば月曜日に、翌々週の月曜日から金曜日まで、品目ごとの納入数量を一度に確定します。そして、そのマトリックス表をFAXで仕入先へ送っていました。

納品自体は毎日行われます。

ところが、その後もMRPは再計算されます。在庫は入出庫によって変化し、発注残の入荷状況も変わり、原材料・部品の所要量も更新されます。その結果、すでに確定した翌々週の日別発注数量と、最新の必要数量との間に差が生じます。

そこで現場から出てきた要望が、「前回発注した数量と今回変更する数量を同じマトリックス上に表示し、どこが何個から何個へ変わったのかを仕入先へ分かるようにしたい」というものでした。

既存の業務だけを見れば、合理的な要求です。しかし、Fit to Standardの視点では、別の問いを持つ必要があります。

「なぜ、一度確定した発注をこれほど頻繁に変更する必要があるのでしょうか。」

問題は帳票レイアウトではなく、早過ぎる確定にある

一度確定発注を受けた仕入先は、その情報を前提に作業を始めます。材料を準備し、生産能力を割り当て、生産順序を決め、必要に応じて輸送の準備も行います。

購入側では「100個を80個へ変更した」という一つの数量変更でも、仕入先側では複数の計画に影響します。そのため、確定した発注を繰り返し変更すれば、サプライチェーン全体へ計画変更を波及させることになります。

先ほどの事例で本当に見るべきだったのは、変更内容を分かりやすく表示する帳票ではないのです。

翌々週の日別数量を、なぜ1週間分まとめて早い時点で確定しているのか。

ここに構造上の論点があります。早い段階で日別数量を確定すると、その後に所要量や在庫状況が変化した際、すでに確定した発注数量との差が生じます。その差を変更発注で吸収すれば、購入側では再計算や差分確認が必要となり、仕入先側でも生産や材料手配、納入計画の見直しが発生します。

したがって、この事例では、発注数量を確定するタイミングそのものを見直す必要があります。将来の供給準備に必要な情報は早めに共有し、日別数量は仕入先が確定情報を必要とする時点で決める。この考え方が、後述する内示と確定発注の分離につながります。

納品頻度と発注頻度は別の時間軸

この事例では、物は毎日納品されています。したがって、納品頻度=毎日、です。一方、翌々週1週間分の日別数量を週に一度まとめて確定しています。つまり、発注頻度=週1回、です。

納品頻度は、物を受け取る機会です。発注頻度は、最新の情報を使って発注数量を確定する機会です。この二つを分けて考えると、毎日納品されているにもかかわらず、発注変更が繰り返される構造が明確になります。日々の納入数量を、情報精度がまだ十分に高まっていない時点でまとめて確定していたからです。

納品リードタイム×納品頻度で時間構造を見る

第一部で示した考え方を品目分析へ展開すると、まず納品リードタイムと納品頻度の組み合わせを見ることができます。


納品頻度:高い納品頻度:低い
納品LT:短い次の納品機会が早い納品機会を逃した影響が大きい
納品LT:長い継続的な入荷パイプラインを形成できる一回の発注判断の影響が長く残る

このマトリックスから、品目ごとの納品側の時間構造が見えてきます。ただし、これだけでは発注数量をいつ確定できるかまでは分かりません。

そこで発注頻度を重ねます。

短納期で毎日納品される品目でも、1週間分を週1回で確定すれば、最新情報を確定発注へ反映できる機会は週1回です。納品頻度の高さを、発注判断の速さとして生かすには、発注頻度との組み合わせが重要になります。

内示と確定発注を分ける

ここでよく出てくるのが、「早く発注しなければ、仕入先が生産準備できない」という論点です。

そこで、将来の必要量を伝える内示と、実際に納入してもらう数量を決める確定発注(あるいは納入指示)を分けて考えます。

例えば1か月先までの必要量は内示として共有します。仕入先は、その情報をもとに材料の手配や生産能力の割り当てを行います。

一方、日別の納入数量は、仕入先が確定情報を必要とする期限まで待ち、その時点の最新の所要量、在庫、発注残を使って確定します。

つまり、将来の数量は早く知らせる。確定する数量は、必要なタイミングまで待つ。という考え方です。

これは、サプライヤー側の生産計画と、実際の納入計画を分けることでもあります。発注頻度を高める目的は、確定済みの発注を頻繁に変更することではありません。

一度確定した発注を変更しなくてもよいように、確定判断をできるだけ適切なタイミングへ近づけることです。

「補正」とは確定発注を変更することではない

ここで、第一部の最後に使った「補正」という言葉を整理しておきます。ここでいう「補正」とは、将来の必要数量に最新情報を反映し、次の確定発注の時点で適切な数量を確定することです。

例えば1か月先の数量は内示として更新しながら、日別の確定数量は直近で決める。こうすれば、所要量の変化を「変更発注」で吸収するのではなく、確定前の情報更新として吸収することができます。この違いは、サプライチェーンを安定させる上で重要です。

人が時間を使う価値は「いつ確定するか」で変わる

第一部では、人が発注判断に使う時間の価値は、納品リードタイムや納品頻度によって変わると説明しました。

第二部で加わるのが、発注頻度です。納品リードタイムが短く、納品頻度が高く、さらに発注数量を高い頻度で確定できる品目では、最新情報を発注へ反映する機会が多くなります。そこで人が将来1週間分の数量を早い時点で精緻にし、その後も変更発注のために時間を使うのであれば、その時間の使い方自体を見直す余地があります。

一方、長納期で確定発注を早い段階に行う必要がある品目では、一回の発注判断が長く影響するため、人が確認する時間の価値は高くなります。

つまり、重要なのは、どれだけ早く発注するか、だけではなく、どの時点で数量を確定することに価値があるのか、です。

第三部では、この考え方を使い、品目ごとにどこまでペーパーリードタイムを短くするのか、どこに人の判断時間を残すのかを整理します。

ERPに任せることで短いサイクルを生かせる発注と、人が時間を使う価値の高い発注を分ける。次回は、この観点からペーパーリードタイムの最適化を考えていきます。