ERP知識シリーズ 全体リードタイムから考えるペーパーリードタイム 第一部:発注判断に時間をかける価値とは
以前のブログでは、食品製造業において、人が行っていた発注前の判断を見直し、自動発注によってペーパーリードタイムを0にした事例を紹介しました。
その事例では、担当者がなぜ計画を変更しているのかを確認し、人の判断の一部を安全在庫などの仕組みに持たせることで、自動発注につなげています。
では、どのような品目でペーパーリードタイムを0にする価値が高いのでしょうか。
今回のシリーズでは、これまで紹介してきた自動発注の実践を一段掘り下げ、人が発注判断に時間を使う価値は何によって決まるのかを、全体リードタイムとの関係から考えます。
ERPが計算した後に、人は何を判断しているのか
ERPが現在庫、原材料・部品の所要量、発注残、発注ロット、リードタイムなどから100個という発注数量を算出したとします。
担当者は、その100個を確定する前に、システム上の現在庫と実際の在庫状況、既存の発注残が予定どおり入荷するか、仕入先から最新の納入情報が届いていないかといった情報を確認します。
例えば、100個の発注提案が出ていても、既存の発注残の一部が予定より早く入荷することが分かっていれば、追加発注量を減らす判断があります。反対に、発注残の納入遅延が判明していれば、別の発注によって不足を補う判断も考えられます。
人が行っているのは、ERPが算出した発注提案に対して、発注時点で把握している購買・在庫情報を加え、実際の発注数量を決めることです。
この判断には価値があります。
一方、在庫を確認し、発注残の状況を調べ、仕入先へ問い合わせ、Excelで数量を再計算し、承認を受けるまでに1日を使っているとすれば、その1日にも評価が必要です。
発注数量の精度を高める効果と、そのために消費する時間を一緒に見る必要があります。
全体リードタイムを二つに分ける
発注業務のリードタイムというと、発注してから商品や原材料が届くまでの日数に目が向きます。しかし、実際には発注する前にも時間を使っています。ERPが発注の必要性を計算してから、担当者が内容を確認し、実際に発注するまでの時間です。本稿では、この時間を「ペーパーリードタイム」と呼びます。すると、発注に関する時間は次のように捉えられます。
全体リードタイム = ペーパーリードタイム + 納品リードタイム
例えば、納品リードタイムが60日の品目に対して発注判断に1日使えば、全体リードタイムは61日です。ペーパーリードタイムが占める割合は約1.6%です。
一方、納品リードタイムが1日の品目で同じ1日を発注判断に使えば、全体リードタイムは2日となり、その50%をペーパーリードタイムが占めます。
同じ1日でも、全体リードタイムの中で持つ重みは大きく変わります。
ペーパーリードタイムは比率で考える
ここから、一つの評価方法が見えてきます。
ペーパーリードタイム比率
= ペーパーリードタイム ÷ 全体リードタイム
納品まで60日かかる品目であれば、一度発注した数量を後から修正しても、その影響を吸収するまでに長い時間がかかります。そのため、ERPが算出した発注提案に対して、現在庫の実態、発注残の入荷見込み、仕入先の納入可能数量、発注ロットなどを確認し、発注数量を吟味する時間には相応の価値があります。
一方、翌日に届く品目では、発注前の1日が全体リードタイムを大きく押し上げます。
ここで重要なのは、人が判断に使う時間が、全体リードタイムに対してどれだけの価値を生んでいるかを見ることです。
納品頻度によって「1日」の価値はさらに変わる
さらに重要なのが、納品頻度です。
例えば、発注から納品までの物理的なリードタイムが1日でも、毎日納品便がある場合と、火曜日だけ納品便がある場合では状況が異なります。
毎日納品されるのであれば、次の納品機会はすぐに訪れます。火曜日だけであれば、発注のタイミングによって次の納品まで数日待つことになります。
したがって、見るべきなのは、「発注してから何日で届くのか」に加えて、「次の納品機会がいつ来るのか」です。
納品リードタイムと納品頻度の組み合わせによって、発注前に使う1日の価値も変わります。
判断している間にも情報は変わる
ERPは、その時点の原材料・部品の所要量、現在庫、発注残、リードタイム、発注ロットなどをもとに発注数量を計算します。担当者がその結果を検証している間にも、在庫は入出庫によって変化し、発注残の入荷状況や仕入先からの納入情報も更新されます。また、MRPが再計算されれば、原材料・部品の所要量そのものも変わります。
つまり、発注数量を精緻にするために時間を使っている間にも、発注提案を算出した前提条件は動いています。特に短納期で納品頻度の高い品目では、一回の発注数量を時間をかけて調整することと、最新の在庫・所要量・発注残を使って短いサイクルで再計算することの、どちらに価値があるのかを考える必要があります。
この論点は、ペーパーリードタイムを0にする自動発注の適用範囲を考える上でも重要です。
安全在庫も重要な成立条件になる
自動発注には、時間の構造以外にも重要な条件があります。需要変動をどこまで吸収するのか、欠品リスクにどう備えるのか、そのために安全在庫をどの水準に設定するのかという考え方です。
過去のブログで紹介したペーパーリードタイム0の事例でも、安全在庫は人の判断を仕組みへ置き換える重要な要素でした。
安全在庫は需要変動、サービスレベル、補充方式などとも関係するため、別のシリーズで改めて掘り下げます。今回まず整理したいのは、発注における「時間の価値」です。
人が発注判断に使う時間の価値は品目によって変わる
人が発注判断に使う時間の価値は、品目によって変わります。
見るべきなのは、「全体リードタイムに占めるペーパーリードタイムの比率」「納品までに必要な時間」「次の納品機会までの時間」です。
この三つを重ねることで、これまで当たり前に使っていた「発注前の1日」が、本当に価値のある1日なのかを考えられるようになります。
そして、ここから次の論点が出てきます。
「発注数量に差が生じたとき、その差を次にいつ補正できるのか。」
納品まで60日かかる品目と翌日届く品目では、その答えが変わります。さらに、毎日発注できる品目と週に一度しか発注しない品目でも違います。
次回は発注頻度まで視野を広げ、「次にいつ補正できるのか」という視点から、長納期品と短納期品における発注判断の価値を比較していきます。