ERP知識シリーズ 運用移行③《後編》:モニタリング
運用移行の最後は「モニタリング」です。設計した新業務が想定通りに稼働しているかを確認し、問題の兆しがあれば早い段階で把握して対応します。今回は、本稼働直後にどのような活動を行い、これまで整理してきた新業務を安定させていくのか。そのために行うモニタリングを解説します。
本稼働直後の1週間は時点を決めて確認する
本稼働直後の1週間は、10時、12時、15時、17時といった時点を決めて稼働状況を確認します。この時間には各チームのリーダーが集まり、同じ状況を見て対応方針を揃えます。判断が遅れると当日の処理の遅れが翌日に積み上がるため、この4回の確認が本稼働直後の要になります。
10時は、朝の立ち上がりの確認です。夜間バッチで把握された異常が、業務開始時点までに解消しているかを確認します。ここで、朝の業務を予定通り進められるかを判断します。
12時は、午前中の処理の確認です。午前に発生したエラーが残っていないか。問い合わせが特定の部門や画面に偏っていないか。処理の遅れが出ていないかを確認します。ここで問題が見つかると、昼休みの間に午後の対応を整理できます。
15時は、当日中に終わるかどうかの確認です。在庫引当、出荷、IF連携に未処理が残っていないか。日次締めに影響する処理が遅れていないか。この時点で遅れが見えると、当日のうちに対応を入れる必要があります。
17時は、日次完結の確認です。今日の業務が今日のうちにシステムへ反映されているか。予実差は解消したか。翌朝へ持ち越すものがあるなら、担当者、対象、期限を明確にします。ここで、一日の処理状況を確定します。
何をモニタリングするのか?
本稼働直後のモニタリングでは、業務への影響が大きい項目に絞って確認します。確認するのは、トランザクションのオーダー量、在庫引当と欠品有無、IF連携エラー状況、バッチ処理時間、日々の予実差、問い合わせ状況、締め処理です。
トランザクションのオーダー量
トランザクションのオーダー量では、稼働直後の件数や数量がいつもと差があるかを確認します。発注、製造の件数や数量に差が出ている場合は、設定や移行結果にずれがある可能性が高いです。
例えば、毎日発注している品目で、発注量が想定より多い、あるいは少ない場合は、仕入リードタイムの設定を確認します。リードタイムが1日ずれているだけでも、発注量の計算結果は変わります。また、在庫移行が漏れていると、その不足分まで発注数量に反映されるため、稼働初日の発注量が大きく膨らみます。
在庫引当と欠品有無
在庫引当では、まず欠品が出ていないかを確認します。欠品が出ている場合は、その欠品が正しい結果なのかを見ます。在庫があるのに欠品しているなら、引当ロケーション、引当倉庫、在庫ステータス、ロット条件、納期条件などの設定に不備がある可能性があります。
その上で、引当結果が想定通りかを確認します。例えば、FEFOが適用されているか、顧客指定ロットが優先されているか、品質ステータスが引当に反映されているかです。納期に関する制御も重要です。納期が先の受注に不要な引当が付いていないか、引当の有効期間や優先順位が守られているかを確認します。
こうした確認を行うことで、欠品の有無だけでなく、運用設定のずれや問題の根本原因まで追うことができます。
IF連携エラー状況
IF連携では、まずエラーが出ていないかを確認します。エラーが出ている場合は、どの連携で、どのデータが止まっているのかを確認します。受注データなら後続の引当や出荷に影響しますし、会計データなら計上や残高確認に影響します。
原因の確認も実務に沿って行います。マスター不備で止まっているなら、対象マスターを修正した上でデータを再送します。どのデータが何件止まっているのか、復旧後に再送が完了したのか、後続処理まで進んだのか。ここまで確認して、初めて当日の業務への影響を判断できます。
バッチ処理時間
バッチ処理では、予定時刻までに処理が終わっているかを確認します。受注取込、在庫引当、MRPは毎回、完了時刻、処理件数、エラー件数を見ます。前日より処理時間が長くなっている場合は、その差を見過ごさず、どの処理で時間を使っているのか、未処理が残っていないかを確認します。MRPについては、本稼働前に基本設定を確認していても、運用に入ってから需要や供給の変化が増えると、再計算対象が広がって時間が伸びることがあります。前回処理の未完了や異常終了の影響が残っている場合もあります。処理時間が長くなった時は、前日から何が変わったのか、未処理や再計算対象が増えていないかを確認します。
日々の予実差
日々の予実差では、当日の処理が当日のうちに完結しているかを確認します。仕入、製造実績、出荷の予定と実績を日々突き合わせ、差が出たらその日のうちに理由を確認します。翌日になると新しい処理が重なり、差の原因を切り分けにくくなるためです。
エンドユーザーからの問い合わせ状況
問い合わせ状況では、どの部門から、どの時間帯に、どの内容の問い合わせが出ているかを確認します。操作に関する問い合わせが多いのか、判断に関する問い合わせが多いのか。同じ質問が繰り返されているなら、マニュアル、教育、権限、運用ルールのどこに不足があるのかを見直します。問い合わせ状況を見ると、現場で定着していることと、まだ定着していないことがわかります。マニュアルやFAQを更新する対象も、ここから見えてきます。
締め処理チェック
本稼働直後に確認する締めは、日次締めです。仕入、製造実績、出荷が当日中に計上されているかを確認します。あわせて、入金消込や買掛計上に必要な前提が揃っているかも見ます。日次で処理が完了していれば、在庫、評価額、残高の確認も進めやすくなります。日次で未処理が残ると、翌日の処理と重なり、差の原因を追いにくくなります。
支払締日・月末締め
支払締日と月末締めは、本稼働後に最初に迎える大きな確認ポイントです。ここで見たいのは、日々の処理が締めに必要な数字へつながっているかです。
確認するのは、支払対象の買掛が計上されているか、月末締めに必要なデータが揃っているか、評価額や残高に差が出ていないかです。経理の仕事は、仕入・売上・在庫・原価など、他部門の処理が揃って初めて進みます。だから、日々の処理に遅れや未完了が残っていると、締めの段階で一気に表れてきます。経理業務は他部門の締め完了を待つ構造にあり、決算日数短縮の鍵は、月末月初に集中していた処理を日次化していくことです。
モニタリングが示すもの
以上で、運用移行のシリーズは完結です。ここまで整理してきたのは、本稼働を迎えるための準備ではなく、本稼働後に新業務を定着させるための実務です。運用移行方針から始まり、方針の実践、現場対応、事務所・取引先・監査、モニタリングまでつながって、初めて運用移行は完成します。