ERP知識シリーズ 運用モデル評価 その3:自走によって開かれる未来

運用モデル評価の到達点は、ユーザー企業が自ら操作マニュアルを整備できる状態に至ることです。その水準に到達したとき、新しいシステムは組織の中に根づき始めます。

本稿では、その状態が何を意味するのか、そしてどのように自走へつながっていくのかを整理します。

操作マニュアルを書ける状態とは

操作マニュアルを書けるとは、業務の流れとシステム処理が一つの構造として整理されていることを指します。

ビジネスプロセスフローの第2層で確認した各分岐が、具体的な操作単位へ展開され、何の担当者がどのタイミングでどの画面を扱うのかが明確になります。運用モデル評価で整理された論点や例外処理も、それぞれの分岐に結びつき、判断基準や注意点として記録されます。

さらに、入力項目ごとに参照元と判断根拠が明らかになっています。どのマスタを参照し、どの前工程を前提にしているのかが説明できる状態です。

この整理を経て、第2層のプロセスフローは第3層のオペレーションフローへと具体化されます。

運用モデル評価による意思決定力向上

以前の記事「意思決定が停滞するERP導入プロジェクト」で触れた通り、ERP導入における意思決定の停滞は、知識不足だけが原因ではありません。立場や役割への遠慮、曖昧な業務ルール、属人化した判断基準が重なり、決めるべき場面で進行が止まります。

運用モデル評価は、その状態を実務の中で変えていく工程です。

業務シナリオを通じて処理を進めると、前述の通り分岐ごとに判断が求められます。しかもそれは一部門の判断では完結しません。受注から出荷、発注から支払、生産から会計へとつながる流れの中で、複数部門が前提条件を共有しながら決めていく必要があります。

部門横断で判断する場面では、立場の違いがそのまま議論の対立や遠慮につながります。そこで曖昧なルールや暗黙知に依存していると、結論は出にくくなります。運用モデル評価では、その曖昧さをそのままにせず、「何を基準に決めるのか」を言語化します。

どのデータを根拠にするのか。
どの工程の結果を前提条件とするのか。
例外はどこまで許容するのか。

これらを明確にすることで、判断は個人の経験や部門の都合から切り離され、プロセス全体の視点へ移ります。この積み重ねが、判断の速さと精度を高めます。迷いが消えるわけではありませんが、迷いの所在が明確になります。議論は立場の主張や心配事の羅列ではなく、前提条件の確認へと変わります。

意思決定力が高まるとは、部門をまたいでも、同じ基準で判断できる状態になることです。運用モデル評価は、その基準を実務の中で整えていくプロセスです。その経験を通じて、組織は自ら運用モデルを成立させる力を持つようになります。

マニュアルを形骸化させないための取り組み

運用モデル評価の成果は、プロジェクト内で整理して終わりではありません。エンドユーザーへ確実に共有され、日常業務がルールに基づいて回っている状態まで含めて、はじめて運用モデルとして成立します。

そのために必要なのが、マニュアルの運用設計です。運用モデル評価で整理した判断基準や例外処理、手順を、マニュアルとして配布し、参照され、更新され続ける形に整えます。最新版がどれか分かり、必要な手順にすぐ到達でき、改定が反映される。こうした統制が効いていることが前提になります。

ExcelやPowerPointは取り組みやすい一方で、長期運用では版管理や検索性、更新の統制が難しくなりやすい領域です。結果として、参照の導線が弱まり、更新が滞り、運用ルールが現場に行き渡らなくなるリスクが高まります。

近年のマニュアル基盤には、操作を記録して画面キャプチャと手順を効率よく作成できるものがあります。利用状況の可視化も前提に設計されており、よく参照される手順や滞留しやすい工程が把握できます。参照データがあれば、改善の優先順位も付けやすくなります。

操作画面とガイドを連動させる仕組み(Digital Adaptation Platform)を活用すれば、手順の確認が業務の流れの中に組み込まれます。資料を探す時間が減り、現場での迷いを抑えられます。

SaaSタイプのERPでは、アップデートによって画面や手順が変わったり、新しい機能が追加されたりします。マニュアル基盤が最新手順に追随できれば、変更点が現場に行き渡り、エンハンスを運用改善として取り込みやすくなります。

マニュアル基盤の選択は、資料形式の問題ではありません。運用モデル評価の成果をエンドユーザーへ届け、ルールに基づく運用を維持し、更新を回し続けられるかどうかの設計です。

自走によって開かれる未来

運用モデル評価を経て、操作マニュアルを自ら整備できる状態に至る。それは、業務とシステムの関係を理解し、判断基準を共有し、組織として業務を再現できることを意味します。

この状態に立つと、変化への対応力が大きく高まります。

ビジネス環境や取引条件が変わったとき、どの業務を見直し、どの設定を調整すればよいのかを自ら特定できます。新たな要望が生まれたときも、既存プロセスとの関係を整理しながら検討できます。変化に対して、感覚ではなく構造で対応できる組織になります。

さらに、改善を内製で進められる領域が広がります。設定変更や業務調整を設計し、小さく試し、調整し、展開する動きが可能になります。経営判断や現場の課題に対して、アジャイルな対応が実現します。

継続的な改善が日常の運用に組み込まれることで、改善は特別な活動ではなく、組織の習慣になります。

自走とは、変化を前提に業務とシステムを進化させ続けられる状態です。運用モデル評価は、その起点になるのです。