品番を取る、取らない? ERPにおける仮品番と本品番の境界線《後編》 購入品はどこまでERPで管理するのか
前編では、サンプル品をどの時点からERPの品目として管理するのかを考えました。中編では、自社や外注先で製造する試作品を、どの時点から生産管理の対象とするのかを整理しました。最後に取り上げるのは、事業活動を支えるさまざまな購入品です。
ERP導入の構想策定段階で、品目管理の方針を検討していると、ある担当者から質問が出ました。
「取扱説明書にも品番を取りますか。」
営業部門からは、「製品カタログも印刷会社へ発注しています。カタログにも品番が必要ですか。」との問いが。
製造部門からも質問が出ます。「キャンペーン用のラベルは、通常のラベルと分けますか。」
設備保全部門も加わります。「交換用のベアリングは、在庫として管理したいです。」
取扱説明書、製品カタログ、キャンペーンラベル、設備補修部品。
品番は、製品や原材料といったもの以外も定義する対象です。購入品は、会社のどの活動を支えているのか。製品を構成するのか。販売活動で使用するのか。設備を維持するために使用するのか。その役割によって、品番、BOM、在庫、発注、原価との関係が決まります。
取扱説明書は、製品を構成する
最初に話題になったのは、製品に同梱する取扱説明書でした。
製品一台に対して、取扱説明書を一冊同梱します。製品を千台製造するのであれば、取扱説明書も千冊必要です。
「それなら、BOMへ登録しますよね。」
製造部門の担当者が言います。
取扱説明書をBOMへ登録すると、生産計画から必要冊数を計算できます。現在庫と発注残を確認し、不足分を印刷会社へ発注します。製造時には、製造実績に応じて取扱説明書の消費数量を記録し、印刷費を製品一台当たりの原価へ反映できます。
製造ロット番号を記載したシールを貼付する保証書や、製品と一緒に出荷する添付文書も、製品一台当たりの必要数量が決まるため、同じ考え方で管理できます。
取扱説明書や保証書は、製品を正しく使用し、必要な情報を顧客へ届けるための構成物です。ERPでは、製品に付随する購入品としてBOMへ登録し、製品と一体で管理します。
同じ印刷物でも、製品カタログは役割が違う
ここで営業部門の担当者が質問します。
「製品カタログも印刷会社から購入しています。取扱説明書と同じように品番を採るのでしょうか。」
取扱説明書と製品カタログは、どちらも印刷物です。同じ印刷会社へ発注している会社もあるでしょう。しかし、必要数量の決まり方が異なります。製品を千台製造しても、製品カタログを千冊使用するとは限りません。
展示会へ何冊持っていくのか。
営業担当者へ何冊配布するのか。
販売店へ何冊送付するのか。
製品カタログの必要数量は、営業計画や販促計画によって決まります。同じカタログを継続して使用し、在庫数量や改訂版を管理するのであれば、品番を設定する意味があります。
ただし、製品のBOMには登録しません。
営業部門が必要数量を計画し、その計画に基づいて発注します。印刷費は製品原価よりも、販売促進に使用した費用として集計する方が、実際の活動を表します。同じ印刷物でも、取扱説明書は製品を構成し、製品カタログは販売を支援します。物の種類ではなく、その役割がERPでの管理方法を決めます。
キャンペーンラベルの場合はどうか
取扱説明書と製品カタログの違いが整理されると、製造部門から次の質問が出ます。
「キャンペーン用のラベルは、どのように管理しますか。」
例えば、「20%増量」と表示した商品を考えます。実際に内容量を20%増やすのであれば、変更されるのはラベルだけではありません。原材料の使用量、内容量、製品重量、包装仕様、原価も変わります。この製品は、通常品とは異なる製品仕様を持ちます。キャンペーン用の製品品番を設定し、その製品に使用するラベルや包装資材をBOMへ登録します。生産数量、在庫、出荷、売上、原価も通常品と区別して管理します。
では、「新発売」や「期間限定」と書かれたシールを通常品へ貼る場合はどうでしょうか。製品の内容量や包装仕様は変わりません。このシールは、販売施策の一環として使用します。
どの店舗へ出荷する商品に貼るのか。
キャンペーン期間はいつからいつまでか。
何枚用意するのか。
どの販売促進企画で費用を負担するのか。
こうした情報を販促計画や出荷作業と結び付けて管理します。
一方、キャンペーンシールを貼った状態が取引先との合意仕様であり、そのシールがなければ対象商品として出荷できないのであれば、出荷仕様の一部として必要数量を管理します。
キャンペーンラベルという名称だけで、管理方法は決まりません。そのラベルによって製品仕様が変わるのか。販売先や期間を限定する施策なのか。出荷時に必須となる仕様なのか。何を変えるためのラベルなのかを確認することで、品番やBOM、発注の設計が決まります。
設備補修部品は、どの仕組みで管理するのか
会議の終盤で、設備保全部門から質問が出ます。
「交換用のベアリングにも、ERPの品番を設定しますか。」
例えば、EAMを使用している企業では、部品情報、在庫、対象設備、交換履歴をEAMで管理します。部品が必要になると、EAMからERPへ購買要求を送り、ERPで発注や納品を管理します。この方法であれば、ERPにも同じ品番や在庫情報を持たせる必要がなくなります。
EAMを使用していない企業では、設備保全の担当者が必要な部品を判断し、部品名称、メーカー、型式、仕様を指定して発注する方法もあります。
設備補修部品は点数が増えやすいため、ERPへ品番を登録する範囲を広げる前に、どの仕組みで部品と在庫を管理するのかを決めておくことが重要です。
境界線を決めるということ
ERPの設計では、まず、製品を構成する物、継続して識別する物、計画や原価につなぐ物を、原理原則に沿って定義します。ここが曖昧になると、部門ごとの判断が増え、業務全体のつながりが崩れます。
一方、管理範囲を広げるほど、品目マスターの維持、棚卸、改訂、運用教育に必要な負担も増えます。
境界線は、負担を避けるために引くものではありません。原理原則を守り、継続して運用できる管理水準を定めるために引きます。
品番を取るか、さらに、構成品としてBOMに登録するか、在庫管理するか。その一つひとつの判断が、会社の標準プロセスを形づくります。