ワークマネジメントとERPの関係 第三部《前編》:活動で蓄積されたデータから文脈を読む
突然ですが、皆さんはAIをどのように使っていますか。
報告書のたたき台を作る。会議メモを要約する。文章を整える。実績データをもとに販売予算を検討する。課題を整理する。すでに多くの業務で、AIは身近な存在になっています。
ただ、現在のAI活用では、多くの場合、人がその都度、情報を集めてAIに渡しています。
どの案件の話なのか。何が起きているのか。どの資料を見ればよいのか。どの判断基準を使うのか。過去に似た事例があるのか。こうした前提を人が説明して、AIに答えを出してもらう。この使い方でも、文章作成や要約、壁打ち、論点整理には大きな効果があります。
では、もしAIが、その都度説明しなくても、ERPとワークマネジメントに蓄積された情報を読み取り、業務の結果と経緯を理解した上で答えられるとしたらどうでしょうか。
今回の投稿では、ERPとワークマネジメントに蓄積されたデータをAIが読み取り、業務の文脈を踏まえたアウトプットを行う考え方について整理します。
AI単体で使う場合と、業務文脈を読めるAIの違い
AIを単体で使う場合、AIは人が渡した情報をもとに答えます。
例えば、「この新製品登録が遅れている理由を整理してください」と依頼するとします。そのとき、申請内容、承認状況、差戻し理由、関係部門のコメント、ERP上の登録状況をAIに渡せば、かなり精度の高い整理ができます。
ただし、その情報を集めるのは人です。
どのタスクを見るのか。どのコメントが重要なのか。ERPではどのマスターやトランザクションを確認すべきなのか。過去の似た案件と比べて何が違うのか。そこまで人が整理してからAIに渡す必要があります。
ERPとワークマネジメントの情報を読めるAIは、前提の持ち方が変わります。AIがERP上の業務データと、ワークマネジメント上の活動履歴を参照できれば、人が毎回すべての状況を説明しなくても、業務の背景を読み取れるようになります。
AIの回答の質は、参照できる情報の質で変わります。ERPとワークマネジメントに業務の文脈が蓄積されていれば、AIはその背景まで踏まえて答えられます。
ERPには結果が残り、ワークマネジメントには経緯が残る
第二部では、ERPとワークマネジメントの補完関係を整理しました。
ERPには、確定した業務データとトランザクションの結果が残ります。品目マスタ、BOM、有効日、製造オーダー、在庫移動、受注、発注、原価、ステータスなどです。ERPは、業務を動かすための正本を管理します。
ワークマネジメントには、その業務データが確定するまでの活動が残ります。申請、コメント、チャット、添付資料、承認履歴、差戻し理由、課題、判断経緯、作業時間、滞留時間などです。
ERPを見ると、何が登録され、どのトランザクションが更新されたのかが分かります。ワークマネジメントを見ると、その登録に至るまでに、誰が何を確認し、どこで判断が止まり、どの課題を解決したのかが分かります。
この二つがそろうことで、業務は「結果」と「経緯」を持った情報になります。AIが読むべき文脈は、ここにあります。
文脈を読むAIとは何か
文脈を読むAIとは、ERPの構造化データと、ワークマネジメントの非構造化データを合わせて読み、業務の背景を理解した上で、回答や整理を行うAIです。
構造化データとは、ERPに登録される決められた項目です。品目コード、数量、単位、原価、有効日、ステータス、受注番号、発注番号、製造オーダー番号などです。これらは、業務を正確に処理し、トランザクションを制御するために使われます。
非構造化データとは、コメント、チャット、添付資料、差戻し理由、会議メモ、課題のやりとり、判断の背景のような情報です。形式は一定ではありませんが、業務の意味を理解する上で重要な情報です。
例えば、ERP上ではBOMの有効日が登録されます。ワークマネジメント側には、なぜその有効日にしたのかが残ります。
ERP上では品目ステータスが使用可能になります。ワークマネジメント側には、どの部門が何を確認し、どの課題を対処して使用可能にしたのかが残ります。
AIがこの両方を読めるようになると、業務データの表面に加えて、その背景にある判断の流れを読み取れるようになります。
新製品登録が遅れている理由をAIが読む
新製品シリーズの立ち上げを例に考えてみます。
営業部門が、月末の販促キャンペーンに合わせて新製品を発売したいと申請します。販売開始日が決まると、販売チャネル、販売価格、受注開始日、初回出荷数量、物流センター別の在庫配置、製造開始日、主要部材の調達、品質確認、標準原価など、多くの確認が必要になります。
ERP上では、最終的に品目マスタが登録され、BOMが設定され、製造オーダーや在庫移動、受注、発注につながります。ERPでは、結果としての状態を確認できます。
ワークマネジメントを見ると、その手前の動きが見えてきます。
販売開始日は決まっているのに、物流センター別の初回在庫確認が後追いになっている。品質保証部門の確認が承認直前に集中している。購買部門が長納期部材の調達可否を確認している。会計部門が標準原価と販売価格の整合性を確認している。差戻し理由には、初回出荷数量が未入力だったことが残っている。
AIがERPとワークマネジメントの両方を読めれば、「品目マスターが未登録です」と答えるだけで終わりません。どの確認が後工程にずれ込んでいるのか、どの部門の判断が残っているのか、どの情報不足が差戻しにつながっているのかを整理できます。
ここでAIが読んでいるのは、データそのものに加えて、データが生まれるまでの活動です。
AIが読むべき文脈
問題解決では、事象を表面的に捉えず、問題、影響、原因、課題、効果のつながりで整理します。
「新製品登録が遅れている」という事象があるとします。そこから、販売開始日に間に合わないのか、初回出荷に影響するのか、製造計画に影響するのか、調達や在庫配置に影響するのかを確認します。これが影響の整理です。
次に、原因を見ます。販売開始日が先に決まり、物流確認が後追いになったのか。申請時点で必要情報が不足していたのか。承認前に品質確認を終える設計になっていなかったのか。部門間の確認順序が実態に合っていなかったのか。
そして、課題を設定します。申請時点で初回出荷数量を入力する。物流センター別の配置予定を早めに確認する。品質保証部門の確認を承認前の必須タスクにする。繰り返し発生する差戻し理由をチェックリストに反映する。
AIが文脈を読むということは、ERPに残る結果と、ワークマネジメントに残る経緯をつなぎ、問題、影響、原因、課題の関係を読み解くことです。
この読み解きができて初めて、AIのアウトプットは業務に使えるものになります。
前編のまとめ
第一部では、タスク、ステータス、ワークフローによって、仕事の状態を見えるようにしました。
第二部では、ERPに残る結果と、ワークマネジメントに残る経緯をつなぎました。
第三部前編では、その蓄積された情報をAIが文脈として読む、という考え方を整理しました。
AIの価値は、参照できる業務文脈の質によって変わります。どの業務データを読めるのか、どの活動履歴を読めるのか、どの判断経緯を参照できるのかによって、アウトプットの質も変わります。
ERPとワークマネジメントを組み合わせることで、AIは業務の結果と経緯を合わせて読み、次の判断を支える存在になります。
次回へ
前編では、AIがERPとワークマネジメントに蓄積された情報を読み、業務の文脈を理解する考え方を見てきました。
では、そのAIを実際の業務でどこまで使うのか。
聞いたら答えるだけなのか。業務データを見て答えるのか。リスクを先に知らせるのか。人が承認すればタスク起票や通知まで行うのか。決められた範囲で自律的に動くのか。
第三部《中編》では、AIの業務活用を段階的に整理して、業務への組み込み方と注意点を考えます。