ERP知識シリーズ 運用モデル評価 その1:位置付け
ERP導入において、ユーザー企業は新しいシステムを自ら運用していくことになります。受注入力や発注、生産計画や製造実績の登録、財務諸表の作成まで、多くの業務を新しい運用モデルのもとで持続可能としなければなりません。本稼働の時点では、これらを自分たちの判断で実行できる状態になっている必要があります。
では、いつからそれができるようになるのか。そして、どのようにして自走へ移行していくのか。
以前の投稿では、プロジェクトメンバーやエンドユーザーの習熟度を管理する手法として「ILUO」を解説しました。今回は、ユーザー企業がITベンダーとの伴走から自走へ移る第一歩となる「運用モデル評価」に焦点を当てます。
運用モデル評価とは
運用モデル評価は、業務構築フェーズでブループリント(実機検証を通じて決定した新しいシステムにおけるプロセスやデータのモデル定義)が完成した後、システム構築フェーズが始まって間もない段階で実施します。
この時点では、インターフェースなどの追加機能はまだ揃っていません。標準ERPをブループリントに沿ってパラメータ設定した状態で、ユーザー企業が主体となって運用を試し始めます。
このように自走を始めることは、業務をより自分事として捉えることにつながり、システムを自分たちのものにしていく第一歩になります。
なお、このタイミングは、ITベンダーが並行してインターフェースなどの拡張機能開発を進める期間でもあります。ユーザー企業側が主体となって標準機能の理解と運用モデルの成立条件を整理し、自走の準備を進める上で、ちょうど良いタイミングと言えるでしょう。
運用モデル評価の2つの目的とそのゴール(完了基準)
運用モデル評価の目的は、大きく2つあります。
1つ目は、ユーザー企業が主体となり、「自分たちだけでどこまで運用できるのか」を確認することです。伴走している間は、ITベンダーが用意したお膳立てのもとで入力を進めることができていました。しかし自走を始めると、「この画面に入力する品目番号は何を見て判断するのか」といった問いが次々に現れます。
ここで初めて、CRPでは見えにくかった操作レベルの論点が課題として浮かび上がります。これらの課題を洗い出し、足りていなかった前提や判断材料を可視化することも、運用モデル評価の重要な目的です。
2つ目は、実務の視点で運用を当てはめ、抜け漏れがないかを再確認することです。実業務を想定して運用を当てはめていくと、入力のタイミングや担当者、例外処理の判断など、運用の継続性に関わる論点が必ず出てきます。この段階で、現行業務が属人的だったのか、あるいはルールが曖昧だったのかといった点も、改めて露わになります。
また、この段階でプロセスフローの抜け漏れが見つかった場合、それは前フェーズの業務構築で検証が漏れていたことを意味します。この場合は、論点をよく精査した上で、必要に応じて前工程に戻る判断も求められます。
以上の2つの目的を踏まえた上で、運用モデル評価のゴール、すなわち完了基準は、ユーザー企業が「操作マニュアルの作成を開始できるレベル」に到達していることです。業務シナリオに沿って、画面項目の一つ一つについて「どのような場合に、何を入力するのか」を自分たちの言葉で説明できる状態を指します。
CRPとの違い:「検証」から「運用」へ切り替わる時の注意点
CRPは、業務要求と標準機能の適合性を検証する場でした。一方で運用モデル評価は、より実務の視点で「ユーザー企業だけでどこまで運用できるか」という継続性を確認する場です。
この切り替えにあたって、注意すべき点があります。運用モデル評価の局面では、ユーザー企業が自分たちの判断で評価を進めることになります。そのため、To-Beモデルの理解が十分に深まらないまま、習熟度が低い状態で評価に入ると、運用上の違和感や不安が「機能が足りない」という言葉に置き換えられやすくなります。
その結果、本来は運用モデルの成立条件として整理すべき論点が、現行業務を基準にした選択へと引き戻され、As-Is回帰として表面化します。拡張開発の要否を見極める前に、現行踏襲を再生産するための追加開発が検討されやすくなるのです。
この状況を防ぐためには、運用モデル評価を「機能の不足探し」にしないことが重要です。標準機能を前提に、To-Beモデルを運用として成立させるための条件を整理し、判断が必要な箇所をルールとして言語化していく必要があります。
運用モデル評価は、Fit to Standardアプローチ導入において、「標準で運用するとは何か」を具体的に理解するための最初の実践なのです。
次回:運用モデル評価の実施計画へ
運用モデル評価は、ユーザー企業が主体となって実施する工程です。そのためには、実施計画を自分たちで立て、体制と役割を定め、業務シナリオやマスタデータを準備していく必要があります。
次回(その2)では、運用モデル評価を実施するための計画立案について整理します。