何か質問ありますか? その前にやっておくこと 〜質問が出ない構造的背景と、ベンダー・ユーザー双方の工夫〜

ERP導入プロジェクトの現場で、ベンダーから一方的な説明を受けた後、「何か質問ありますか?」と問いかけられても、誰も手を挙げない。これは、もはや“あるある”といっていい光景です。説明の途中で「ここまでで質問ありますか?」と投げかけられ、沈黙のまま10秒ほど時間が経ち、次の説明が始まる。そして、後になって「実は理解されていなかった」ことに気付くのです。

特にリモート環境が主流となった昨今では、その傾向がますます強くなっています。表情が見えず、空気も読めない。にも関わらず、説明するベンダーは、相手の反応を見ようともせずに一方的に話し続ける。これでは、ユーザー側との距離は広がる一方です。

【ベンダー視点】なぜ質問が出ないのか?

ベンダー側の思いとしては、丁寧に時間をかけて説明したのだから、当然何か反応があるだろう、という期待があります。しかし、「質問が出ない=理解されている」と捉えるのは、大きな誤解です。

そもそも、説明を受けるユーザー側には、質問を即座に思いつく準備も、自分の疑問を咀嚼する余裕もありません。情報の大半は初見であり、前提知識も不十分です。その上、複数の関係者が同席している場では、空気を読んで発言を控える文化も影響します。

つまり、質問が出ないことが問題なのではなく、質問が出る状態が設計されていないことが問題なのです。

【ユーザー視点】質問できない構造的理由

一方、ユーザー側から見れば、「何か質問ありますか?」という問いかけは、実は大きなプレッシャーです。

説明を聞くのに集中していた頭を、急に“質問モード”に切り替えろと言われても戸惑うばかり。「わからないことはたくさんあるけど、何をどう聞いてよいか分からない」というのが本音です。

さらに、「あれも分からない、これも分からない」と率直に聞けば、「意識が低い」と思われるのではないかと不安に感じることもあります。こうした背景が、「質問をしない」という選択につながっているのです。

だからこそ、ユーザー側も「聞く姿勢」を自分で整えることが重要になります。とはいえ、それをユーザー任せにしては、本質的な変化は生まれません。

相互に「質問される準備」と「質問する準備」を組み立てる

こうした構造的すれ違いを解消するために、ベンダー・ユーザー双方の準備が必要です。以下はその具体的なアプローチです。

ベンダー側の工夫:問いを先に伝える
  • 「この後、いくつか質問させていただきますので、ポイントを意識して聞いてください」と説明の前に伝える。
  • 「この部分、後ほど実際の業務でどう活かせそうか考えていただきたいと思います」と、能動的な聴取姿勢を促す。
  • 「この内容を、別部署の方に説明する必要があるとしたら、どう伝えますか?」と“再説明モード”を想定してもらう。
ユーザー側の意識改革:受け身から「問いを持って聞く」姿勢へ
  • 説明をただ聞くのではなく、「この内容は自社のどこに影響するか」「業務上のどの場面で活きるか」を考えながら聞く。
  • 不明点をその場でまとめきれない場合でも、その場で一つだけでも言語化しようとする習慣をつける。
  • 「質問=無知を晒すこと」ではなく、「理解を深める一歩」だと認識する。
「何か質問ありますか?」は問いの放棄である

「何か質問ありますか?」という問いは、実は責任の所在を聞き手に押しつける行為にもなり得ます。ベンダーは「説明した」、ユーザーは「理解していない」、その間のすれ違いを、質問という形で埋めようとするのではなく、説明前の段階から“問いを前提”とする必要があります。

そしてユーザーも、聞いたことを評価される立場ではなく、自社の経営や現場にどう影響するかを“翻訳する主体”として説明に向き合う必要があります。

まとめ

ERP導入プロジェクトにおいて、「質問が出ない」は、単なるコミュニケーションギャップではなく、プロジェクト理解の“構造的断絶”の兆候です。

ベンダーは「説明設計」を、ユーザーは「問いを持つ準備」を、互いに意識することで、「説明したのに伝わっていなかった」「理解したつもりだったが誤解だった」といった失敗は大きく減ります。

質問は“出るもの”ではなく、出していただくために“設計するもの”です。だからこそ、「何か質問ありますか?」と尋ねる前に、やっておくべきことがあるのです。