意思決定が停滞するERP導入プロジェクト

ERP導入プロジェクトでは、体制として「プロジェクトメンバー」と「エンドユーザー」が分けられます。さらに、多くの企業ではビジネスプロセスオーナー(BPO)という役割も加わります。

BPOは、新しい業務の進め方へ移行する際に、現行業務への影響や現場の反発を受け止めながら、ソフトランディングの道筋を示す役割を担います。ERP導入において、運用モデルの意思決定を支える中心的な存在です。

ただ現実には、体制図にBPOがいても、意思決定が思うように進まずプロジェクトが停滞してしまう場面が起きます。これは特定の企業や担当者の問題というより、ERP導入が持つ構造上の難しさが表面化した状態だと捉えるのが適切です。

今回の投稿では、BPOがいても意思決定が進みにくくなる場面で、プロジェクト内にどんな反応やすれ違いが起きるのかを事例で整理します。

ERP導入は意思決定の連続

プロジェクトメンバーは導入の実行責任者として、現行業務を整理し、標準業務との違いを調べ、論点や意見をプロジェクトの中で積み上げていきます。受注や発注のルール、例外処理、マスタデータの整備方針やコード定義など、運用モデルに関わる論点はこの段階で数多く現れます。このようにプロジェクトは『意思決定の連続』です。そして、それらの最終責任者として意思決定を担うのがビジネスプロセスオーナー(BPO)です。

適切な意思決定を下すためには、プロジェクトメンバーとBPOが、ビジネスプロセスとデータのつながりを構造的に理解しておく必要があります。ERP導入とは、その理解を深めながら判断を積み重ねていく活動であり、プロジェクトを通じて運用の意思決定者が育っていくプロセスでもあります。

問題事例:意思決定が停滞するプロジェクト

前述の通り、現実のプロジェクトでは、この意思決定が停滞してしまう場面が起きます。

例えば、製造指図の検討で、「ロット番号の採番は指図時か完成時か」「材料引当はロット番号を指定するかしないか」といった論点が出たとします。こうした場面においてプロジェクトでは、

「現場に聞かないと決められない」
「(ベンダーから)提示された情報だけでは判断できない」
といった声が上がります。

これらの発言は、現場としての慎重さや責任感から出てくる自然な反応です。一方で、「これだけでは判断できない」が何度も繰り返されると、結果として「本稼働してみないと判断できない」に近い状態になり、意思決定の場が前に進みません。

また、仮に結論が出たとしても、合意形成の経緯や判断軸が十分に共有されないと、「誰々が言っていたから」という説明になってしまうこともあります。これでは、判断の根拠が運用モデルとして言語化・記録されないまま次の論点に移ってしまいます。

意思決定を急ぐと現行踏襲となる

意思決定が停滞する場面では、典型的な会話があります。プロジェクトメンバーは「自分たちには権限がないので決められない」と言います。一方でプロジェクト管理側は「メンバーの意見を聞かないと判断できない」と言います。

本来ここで判断すべきBPOが判断しづらい状態のままだと、誰がどの観点で決めるのかが曖昧になります。この状態で結論を急がせると、(変化を抑えたい意図がなくても)結果として現行に近い形に落ち着きやすくなります。

属人化した現行業務ほど顕著に現れる

この意思決定停滞は、現行業務のルールが曖昧だったり、属人化している企業ほど顕著に現れます。

現場では業務が回っているように見えても、その実態が担当者の経験や暗黙の判断に支えられている場合、運用モデルとして言語化されていません。

ERP導入では、こうした曖昧さがそのまま論点になります。誰が、いつ、何を根拠に判断するのかを定めなければ、標準業務として成立しないからです。つまりERP導入プロジェクトは、現行業務の属人性を可視化し、運用モデルとして再定義する活動でもあります。

SaaS ERPでも塩漬けシステムになる

SaaS ERPを選んだはずなのに、意思決定が停滞すると運用は現行業務に引き戻され、オンプレミス時代と同じ使い方に回帰してしまいます。これは前述したケースで典型的に起きる現象です。

画面や機能は新しくなっているのに、業務の意思決定や運用の構造は変わらない。結果としてシステムは稼働した時から何も変わらない、いわゆる「塩漬け」の状態になってしまいます。

ここで問題なのは、現行業務と同じ使い方に戻ることそのものではありません。新しいシステムを運用モデルに組み込むノウハウが備わっていないために、機能が追加されてもそれをどう活用すれば業務改善につながるのかを運用モデルとして組み立てられないことにあります。

ここで問題なのは、現行業務と同じ使い方に戻ることそのものではありません。新しいシステムを運用モデルに組み込むノウハウが十分でないために、新機能が備わっても、それをどう活用すれば業務改善につながるのかを組み立てられないことにあります。

SaaS ERPの価値は、標準を前提に運用モデルを更新し続けられることにあります。そのためには、プロジェクトの段階からBPOが運用の管理者として意思決定を担い、自分たちで運用モデルを成立させる必要があります。

運用モデル評価という自走の第一歩

意思決定が停滞する背景には、新しいシステムの理解不足だけでなく、現行業務が属人的であったこと、運用の管理者が十分に機能しにくかったことが重なっています。

では、どうすればユーザー企業が主体となって運用モデルを成立させられるのか。

その問いに対する最初の実践が「運用モデル評価」です。伴走の中で操作していた段階から、ユーザー企業が主体となって運用を成立させる段階へ移る境界線になります。

次回からは、この運用モデル評価について整理していきます。