多角的な視点から考える、ERP導入プロジェクトのチーム編成
プロジェクト開始当初に多く寄せられる質問の一つに、「プロジェクトチーム編成はどうすれば良いのか?」というものがあります。しかし、この問いに対するベストな答えは、プロジェクトの目的に即して検討することで初めて得られます。つまり、プロジェクトの目的に合わせて、必要な知識やスキルを持つメンバーを適材適所で配置することで、機動的な編成が可能になるのです。
例えば、プロジェクトの目的に「属人化を排除して業務を標準化する」とあるならば、チームは特定の事業単位に閉じず、業務単位で、かつ事業を横断してメンバーを集結させると良いでしょう。もし事業ごとに販売チームを分割してしまえば、お互いが行っている業務の細部を共有しづらくなり、それぞれが自らに最適化した業務へと回帰しがちです。これでは属人化や業務のバラつきを解消できず、標準化には程遠い結果となってしまいます。
次に、品目コード体系の統一化を例に考えてみます。以前の記事「ERP知識シリーズ The品目マスター」でも触れたように、品目コードは発生から運用までの全段階で技術部門、仕入部門、生産、販売、分析といった幅広い領域に関わります。これを重要課題として位置付けるのであれば、ワーキンググループを設けたり、専門チームを組成したりして、特化した形で検討すると効果的です。最終的な判断はプロジェクトメンバーのスキルや経験、組織の文化に合わせて行うことになります。
では、内製化の取り組みはどうでしょうか? 従来のシステム開発では内製化はIT部門が中心となって対応していましたが、今後はビジネス環境の変化に敏捷に対応するため、業務部門自らがシステムを内製する能力を身に付けることが求められます。ERP導入プロジェクトは、このスキルを獲得する絶好の機会です。結果として、内製化を視野に入れると、業務チームごとにシステム改善に関わるメンバーが必要になるでしょう。
コミュニケーションの観点から考えてみます。ERP導入プロジェクトには多くの会議体が存在しますが、この「会議体」という観点からチームを見直すことも有効です。大人数で集合する全体会議はあってもよいのですが、チーム単位で行う課題検討会やCRP(Conference Room Pilot: 実機検証)セッションは、チームを細かく分けすぎると検討内容が部分最適になり、偏った解決策に陥るリスクが生じます。一方で細分化すれば議論は深まりやすい、というトレードオフがあるため、目的に応じた最適な粒度を探ることが重要です。
組織構造的な観点では、プロジェクトの最上位にプロジェクトオーナーを置くことが望ましいです。オーナーは最高意思決定者であり、会社全体の意思決定権を有する人物が適任です。その直下にプロジェクトマネージャーを配置しますが、プロジェクトマネージャーには、業務部門出身者が担うことを強く推奨します。なぜなら、ERP導入は業務改革であり、業務を熟知した人物がプロジェクトの「主人公」として最適な判断を下し、メンバーを導くことができるからです。IT部門の人物がプロジェクトマネージャーになると、過去の習慣からカスタマイズを安易に増やしてしまう傾向が見受けられます。IT部門はこれまでユーザーに対して細やかな配慮を行い、その結果として使い勝手を重視したカスタマイズの方向へ流れやすい立ち位置にあったためです。プロジェクトマネージャーにはPMOを付け、さらにプロジェクトマネージャーの配下に各業務チームとITチームを設け、業務チームにはBPO(Business Process Owner)と呼ばれる業務エキスパートとキーパーソンをアサインします。BPOは業務が変わることの影響度を見極め、どうすれば現場の混乱なく変革を実現できるかを考え、キーパーソンは現場の具体的な知見をBPOに提供し、BPOの判断を実行へ移す役割を担います。
プロジェクト初期から多くのエンドユーザーを直接アサインするプロジェクトもありますが、私はあまり得策ではないと考えています。現場の方々が日常業務に専念してくださるからこそ、プロジェクトメンバーはプロジェクトそのものに集中でき、戦略的かつ将来志向の議論が可能になるのです。ただし、エンドユーザーはステークホルダーとして重要であることに変わりはなく、十分なコミュニケーションチャネルを確保し、関心を持続してもらう工夫が必要であることは言うまでもありません。
育成の観点も見落とせません。ERP導入プロジェクトは部門を横断する知識を自然に身に付ける機会を提供します。実際に本稼働を迎えたあるお客様からは、「若手メンバーを勉強目的でプロジェクトに参画させたところ、広い視野で業務を捉えられるようになった」というお声を頂きました。つまり、ERPプロジェクトは単なるシステム導入に留まらず、次世代を担う人材育成の場でもあるのです。そのため、チーム編成時にはエキスパートの隣に新人を配置し、プロジェクト遂行と人材育成の二つの成果を同時に狙うことができます。
これらを総合すると、一つの例として、プロジェクトマネージャーを業務出身者とし、業務単位でチームを編成する方法が考えられます。各チームはエキスパートをリーダーに据え、キーパーソン、若手メンバー、内製化メンバー、ベンダーメンバーを含めて約5名とし、そこに事業単位で2~3名の追加メンバーを加えることで、1チーム当たり7~8名程度の体制になります。
例えば、技術、販売、物流、生産、購買、経理、ITといった業務ごとのチームをそれぞれ約8名で構成した場合、これにユーザー企業とベンダー企業からプロジェクトマネージャーを各社1名とPMOの3名を加えると、合計でおよそ60名規模のプロジェクト体制となります。
もちろん、これはあくまでも一つの例示であり、実際にはユーザー企業の実情やプロジェクト固有の要件を踏まえて体制を練り上げなければなりません。本記事で述べたことは基礎情報であり、以前の記事「ERP成功への道:最適チーム構築と協力体制の確立戦略」で記載したメンバー選定や協力体制など、あらゆる要素を勘案したうえで自社にフィットする体制を模索することが肝要です。